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れきたん歴史人物伝
れきたん歴史人物伝は、歴史上の有名人の誕生日と主な歴史的な出来事を紹介するコーナーです。月に一回程度の割合で更新の予定です。バックナンバーはこのページの最後にまとめてあります。


5月号 2006年5月30日更新

【今月の歴史人物】
負けるなやせ蛙
小林一茶
宝暦13(1763).5.5〜文政10(1827).11.19

今月号のイラスト
小林一茶
◆やせ蛙これにあり。
(C) イラストレーション:結木さくら


5月の主な誕生人物
01日 円山応挙/江戸時代の画家
02日 エカテリーナ二世/ロシア女帝
03日 マキァベリ/政治家、歴史家
04日 西郷従道/政治家
05日 小林一茶/江戸時代の俳人
06日 フロイト/精神医学者
07日 本居宣長/江戸時代の国学者
08日 トルーマン/政治家
09日 バリー/劇作家
10日 モンジュ/数学者
11日 ダリ/画家
12日 ナイチンゲール/看護婦
13日 マリア・テレジア/オーストラリア女帝
14日 北条時頼/鎌倉幕府五代執権
15日 北条時宗/鎌倉幕府八代執権
16日 間部詮房/江戸時代の側用人
17日 ジェンナー/医学者
18日 ラッセル/数学者、哲学者
19日 西田幾太郎/哲学者
20日 バルザック/小説家
21日 デューラー/画家
22日 ドイル/小説家
23日 リンネ/植物学者
24日 ビクトリア/イギリス女王
25日 エマーソン/哲学者、詩人
26日 中村正直/教育者
27日 イブン・ハルドゥン/歴史家
28日 崇徳天皇/第75代天皇
29日 林鵞峯/江戸時代の儒者
30日 林房雄/小説家
31日 ホイットマン/詩人

“やせ蛙負けるな一茶これにあり”
小林一茶といえばこういった優しさを感じさせる句が有名です。本人も優しさ、あたたかさに満ちた好々爺といったイメージで一般には捉えられているのではないでしょうか。
ところが一茶の実像は、それとは少々違っているようです。代表作『おらが春』にしても、そのタイトルから感じられる暢気さとはかけ離れた成立背景を持っていました。今回はそんな俳人・小林一茶についてご紹介します。

江戸へ追いやられ
小林一茶は宝暦13(1763)年5月5日、信濃国(現在の長野県)の柏原村に生まれました。家は農家でしたが、わずか3歳にして母を失いました。一茶8歳の時に父が再婚し、やがて異母弟が生まれます。ところが弟が生まれると継母は一茶を邪険に扱うようになります。困り果てた父が一茶を江戸へと奉公に出したのが15歳の時。一茶の少年時代は辛いものだったのです。
江戸へ出た一茶は働きながら俳諧を身に付けます。20代も半ばの頃には師匠も得、旅などしてその実力を増してゆきました。俳人としての評判も高まり、この頃が一茶の最も燃えていた時代であったでしょう。

骨肉の争い
やがて一茶は俳人としてようよう一本立ち出来るまでになり、39歳の年に柏原村へと帰省します。ところが故郷では父が重病で倒れており、一茶はその看病を行います。しかし、手篤い看病のかいもなく、父は一月後に亡くなりました。
さて、一茶は父が亡くなる前後のことを『父の終焉日記』という文章に残しています。父を慕う気持ちや亡くなった悲しみが切々と綴られているのですが、実はそれと同時に継母や異母弟との諍いの様子も描かれています。
諍いの原因は父が死の直前に残した遺言にあります。遺言の内容は自らの遺産を一茶とその弟、つまり一茶の異母弟へ半分ずつ与える、というもの。さて、これで納得行かないのはもちろん継母と異母弟。自分達にしてみれば実際今まで守ってきた田畑を、遠くで何もしなかった義理の息子に奪われる思いがしたに違いありません。しかし一茶にしても、長男であるのに継母に苛められ、厄介払い同然で江戸へといきなり出されたわけで、遺産相続権はもちろんあると思っていたでしょう。もともと一茶と継母との折り合いは悪かったこともあり、ここに壮絶な遺産争いの幕が切って落とされるのです。
遺産争いは何と10年以上も続きました。江戸へ帰った一茶は折にふれて帰郷し遺産相続を主張、異母弟側も譲りません。50歳を過ぎた頃に本格帰郷して交渉、地元の住職の仲裁を得てようやく解決するのです。一茶は定住する土地を得ました。
故郷に落ち着くと一茶は初の結婚をします。28歳とかなり年下の相手でした。とにもかくにも、これでようやく一茶にも安息の日々が訪れた……かというとそうではなかったのです。

おらが春
結婚した一茶の家庭にはやがて三人の男の子と一人の女の子が生まれます。しかしこの子らはみな幼いうちに亡くなってしまいました。一茶の代名詞とも言える代表作『おらが春』は一年が過ぎゆく様子を句と文章で綴った俳句日記とも言うべき作品ですが、実はこの長女が亡くなった年の記録です。幼い娘の仕種、かわいらしさ、成長、そして死。それらが詰まっているのが『おらが春』なのです。
一茶の不幸は続きました。子供達がみな亡くなり、ついには妻も結婚後約10年で亡くなってしまうのです。その後再婚しますがすぐに離婚。ふたたび再婚するものの、今度は村の大火事で家を失い、何とか焼け残った土蔵に移り住む羽目になりました。やがて一茶は土蔵暮らしのまま亡くなります。文政10(1827)年11月19日のことでした。

困難の中で
こうして見ると一茶の生涯とは不幸や困難の連続でした。それらの経験が、小さなものへの愛情やこまやかな視点を培ったのでしょう。しかし、困難に向かってゆく激しさやしぶとさも、一茶は持っていたに違いありません。江戸へ放り出されてもめげずに俳諧で名を上げたこと、遺産争いを10年以上も続けて土地を得たことなどは、そんな激しさを象徴した出来事ではなかったでしょうか。また、『父の終焉日記』では、父を亡くした中、その悲しみと遺産争いを同時に記録するということをやってのけました。『おらが春』でもかわいがっていた娘の死を書き残しています。悲しみながら、悲しんでいる自分を冷徹に眺める。そんな文学者としての凄まじい力も、一茶は持っていたと言えるのではないでしょうか。
そういうことを考えていくと、冒頭のやせ蛙の句も、優しさやあたたかみだけではない、一つ変わった印象を持って迫ってくるように思えます。

 
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